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ブルワーの職人技
ベアード研究所#1:酵母のうんちく
2016.04.04 

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橋本大輝。26歳独身。

 

ベアード研究所からこんにちは、ラボテクニシャンのタイキ(26歳独身)です。僕はこの会社で酵母の管理をしながら、雑用もこなしている若手です。Brewer’s Craftはいつもクリスが書いているのですが、年のせいかタイピングができないらしく、代わりに僕が筆を執ります。

 

昨年の同じ時期に、クリスが酵母に関する記事を書きました:「酵母の魔法」 それによると、「(酵母)それぞれが違う個性を持ち、違う反応を示しますから、当然取り扱いも異なってきます。使用する酵母を良く理解し、ありのままの酵母に愛情を込めることで、酵母は想像する以上に応えてくれるでしょう。」とのこと。

 

なるほどわからん。酵母ってそもそもなんなの?ベアードビールでは実際どんなことをしているの?というご意見が(多分)たくさん寄せられました。そこで今回は、ラボテクニシャンの酵母講座第一弾!みんなの疑問「酵母ってなに」に、ややマニアックに、歴史的な部分も交えて迫ってみたいと思います。酒飲みのうんちくトークにぜひどうぞ!

 

酵母を400倍に拡大して見ている。酵母は円~楕円形で、自分で動き回ることはできない。カワイイ。

 

Brewer’s yeastの「発明」

 

酵母。世界中すべてのお酒を作り出していると言っても過言ではない。彼らが生まれていなければ、この世にお酒なんて無い。酒飲みにとっては神のような存在です。酵母は直径5-10ミクロンほど。一匹(?)を肉眼で見ることはできません(それでも微生物の中では大きい方なのですが)。上の写真を見てわかるように、丸い形をしています。「酵母」と呼ばれる菌はいたるところに何種類も生活していますが、その中でもビール造りに使われる酵母は、醸造酵母(Brewer’s yeast)と呼ばれるものです。

 

さて、人類がビールを造り始めてから、これまでに様々な革新がありましたが、最もインパクトの大きな革新はなんでしょうか。僕が思うに、それは「酵母の純粋培養(Pure Culture)」の発明です。つまり、それまで様々な菌(酵母、カビ、バクテリアなど)がごちゃ混ぜ状態で造られていたビールから、より良い酵母だけを選び出し、「醸造酵母(Brewer’s yeast)」として飼いならした。その結果、上面発酵酵母(Top-fermenting yeast, Ale yeast)や下面発酵酵母(Bottom-fermenting yeast, Lager yeast)といった酵母を見分け、個別に使えるようになり、ビールの味や生産性が洗練されていったのです。この立役者は、かの有名なカールスバーグ社の微生物学者、ハンセン(Emil Christian Hansen)。しかも、ハンセン達は、発明した純粋培養技術を特許にすることをあえてしなかったと言います。そのおかげで1883年の発明後、この技術は瞬く間に世界中に広まっていき、ビールだけでなく微生物学全体に革新をもたらしていきました。このように、ハンセンは近代的な醸造技術の礎を築いたとも言える人物で、醸造界の巨人です。みんな今すぐカールスバーグを飲もう!

 

酵母の名前は「ビール」から

 

名は体を表すといいますが、酵母の名前に注意してみたことはありますか?

 

まず日本語の総称「酵母」。読んで字のごとく、発酵の母。Mother of Fermentation。カッコイイ。この名前だけで、酵母が様々な発酵現象に関わっていることがわかりますね。お酒、味噌、醤油、中目黒タップルームのピザ生地…酵母がどんなところで活躍しているか、調べてみると楽しいですよ!

 

名前の秘密はまだあります。次は酵母の「学名」に目を向けてみましょう。
まずエール酵母。その学名はSaccharomyces Cerevisiae. この名前の中には、砂糖(saccharose)とビール(cervesa)の文字が隠されています。つまり、砂糖を食べて、ビールをつくる菌…まさにビールのために生まれてきた生き物じゃないか。カッコイイ。

 

さらに、ラガー酵母の(昔の)名前にも秘密があります。その名は、Saccharomyces Carlsbergensis. どこかで聞いたことはないですか?そう、カールスバーグ社の名前がついているのです!命名者は…出た!ハンセン!自分んとこのビールからラガー酵母だけを取り出して、自分の会社名までつけるなんて、ものすごい愛社精神です。カッコイイ。ベアードで新種の酵母を発見したらSaccharomyces Bairdbryanusとでも名前を付けたいものです。

 

ラボテクニシャンにはのぞきの趣味がある

 

このように、私たち人間は酵母を理解する努力をし、その扱い方や性質を調べたり、名前を付けたりしてきました。そしてもっと重要なことに、酵母による味の変化、つまり酵母の個性を楽しんできたのです。このような営みは紛れもなく「科学」であり「食文化」です。

 

「個性を楽しむ」――これは我々のロゴにも書かれているように、ベアードビールに深く根付いている考え方です。これはビールに対しても、酵母に対しても同じことです。私たちはこの考えに基づいて、酵母の選定・保存・培養・そのほか全ての取り扱いを、自分たちの手で行っています。私たちが扱う酵母はそれぞれが個性的です。これを理解するためには、触感、におい、味…五感をフル動員して、見えない部分は顕微鏡で見て…できる限りの対応が求められます。大変です。でもそれぞれを理解し付き合っていくのは、実はとても楽しいものなのです。誰だって恋人とは良い関係を築きたいものです。

 

次回はこのへん、ベアードビールの酵母がどういう風に扱われているのか、セレブな実態に迫りたいと思います!さようなら!乾杯!

 


 
Taiki Hashimoto
 
橋本大輝はベアードブルーイングのラボラトリーテクニシャン(26歳独身)。
飲み会のご連絡はtaiki@bairdbeer.comまで。